知られざる土佐古代塗―土佐ニ古風ノ漆器アリー
2023/03/21 - 2023/05/19
明治時代中期の創成期から現在に至る作品とその歴史をたどります。
開催期間 | 2023/03/21 - 2023/05/19 |
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休館日 | なし |
観覧料 | 700円(常設展含む)(団体20名以上560円) ■高校生以下は無料 ■高知城とのセット券/900円 *高知県・高知市長寿手帳所持者は無料 *身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳所持者と介護者(1名)は無料 ●観覧券は当日のみ有効です。 |
展示について
土佐古代塗とは
土佐古代塗は、約130年前、明治時代中頃の土佐で始められ、現在も作り継がれている塗り物(漆器)です。
末永く使える日用品を目指し、丈夫で傷の付きにくい塗り、歳月とともに深みを増す飽きの来ないデザインが追求され、独特の作風へと洗練を遂げました。
明治生まれの「古代塗」
土佐古代塗は、山口出身の画家・漆芸家種田豊水が、明治22年(1889)、土佐の山脇信三と小栗正気に漆芸の技術を伝えたことに始まります。
この時代、漆器の模様(加飾)といえば、金銀砂子で描かれた流麗な文様、螺鈿・象嵌などのきらびやかなものが一般的でした。そこに現れたのが、南画*のモチーフや筆づかい、中国古代の書体を取り入れた簡素で力強い漆器だったのです。江戸時代以来、儒学が普及し、漢詩や南画が好まれていた土佐で、この漆器は好評をもって迎えられました。
*南画:中国の元・明の絵画に影響を受け、江戸時代後期の日本で生まれた画風
画像2 彩漆蒔絵蟹図盆 山脇古代堂 初期の古代塗にはこんなカラフルなものも
画像3 為観字入丸膳 山脇信三 中国古代の書体で「為観」の2字が表わされている
ねらいは「中国古代」風
古代塗創始者の一人山脇信三は、幕末の土佐で富裕な郷士の家に生まれ、儒学・書・南画を学び、漢詩・俳諧をたしなむなど、典型的な近世土佐の教育を受けて育ちます。青年期に上京、慶應義塾で啓蒙思想に触れ、帰郷後も立憲政友会員として地方政治に関わり続けました。
このように漢学の教養を土台に西洋の思想を受け入れ、中国の芸術を愛好するというありかたは、当時の教養人の一般的な姿でした。隣国・清との交流も増す中で、中国文化への関心はより古い時代へも向けられ、書や書体の研究が進んだのもこの時期です。
漆器の世界に南画や古代の書体を取り入れる知的な挑戦、それが古代塗だったのです。
画像4 山脇信三の蔵書 中には手作りの篆書字典なども
企業の登場
山脇信三らが生み出した漆器はやがて「土佐蒔絵」、ついで「古代塗」とよばれるようになりました。
全国的な漆器需要の高まりを受け、木材豊富な土佐でも古代塗を始め漆器を産業化しようという動きが起き、明治44年には高知市帯屋町に職人養成の学校「高知市立高知工業高校」が作られました。またこの頃、製造販売、卸の会社も複数設立され、卒業生が社員や契約業者となって、盛んに製造が行われるようになります。
古代塗の大きな特徴である「ザラ地」「型置き」の技術もこの時期に生まれました。
画像5 篆書散らし文様二段重 嫁入り道具として持参し、空襲の時にはこれを抱えて防空壕にかけこんだという
画像6 ザラ地作りの様子 池田泰一氏(美禄堂) 令和5年2月2日撮影
引き出物・記念品の定番へ
昭和11年(1936)には県の特産品に指定された古代塗。土産品販売のみならず、百貨店など県外への売り込みも盛んに行われていたようです。県内でも嫁入り道具や晴れの器として、庶民の手に届く商品になっていたと見られます。
戦中は一時中断しましたが、戦後の経済復興、高度成長の時代には結婚式の引き出物や香典返し、快気祝い、企業や公共団体の記念品の定番として盛んに生産されました。
他産地では、合成樹脂を使用した安価な漆器を大量生産する動きが盛んになっていましたが、古代塗はこの道は取らず、天然の木材と漆にこだわり続けました。
画像7 下絵 昭和20~30年代 この頃は室戸岬、尾長鶏、海の幸など絵画的なモチーフも多かった
画像8 型置き用の型 昭和20~30年代 商標やアルファベット表記の古代塗もあった
再び個人工房の時代へ
漆器を始め和紙や陶磁器など伝統工芸品の日本全体での生産額のピークは昭和58年あたりだったといわれています。生活様式の変化、安価な海外製品の輸入拡大によって、日本人の生活の中から、漆器が急速に姿を消し始めました。昭和51年には3企業5個人を数えた古代塗もその10年後には個人工房3軒となり、現在は1軒のみとなってしまいました。
古代塗のある暮らしのご提案
展覧会では、上記のような土佐古代塗の製品・歴史のほか、漆器のお手入れの仕方や、料理の盛りつけ例などをご紹介しています。また、ミュージアムショップでは製品を実際に触っていただけます。
画像9 盛りつけ例
関連記事:おうちにある「古代塗」使ってみませんか?
漆を楽しみ、土佐古代塗を知る展覧会
また、土佐古代塗の特色を浮き彫りにする試みとして、漆の基礎知識・古代塗以外の漆器の技法についてもご紹介しています。
日本の漆利用の歴史は9000年以上。この気難しい天然塗料の性格を知り尽くした無数の匠たちによって、より強く、より美しくと工夫が重ねられて現在に至ります。
漆器に触れるということは9000年分の知恵と歴史に触れるということ。さあ、あなたも漆器・古代塗にふれてみませんか。
画像10 左上から螺鈿・高盛絵・堆錦・唐塗・堆朱・象嵌
刊行物案内
「土佐古代塗読本」
A4版16頁
土佐古代塗の歴史、製造工程、手入れと盛りつけ、漆と加飾の基礎知識など。
令和5年3月21日刊行